2013年 03月 27日
沈丁花 |
父はこの花の名前を忘れている。
この花が庭に咲いていることも忘れている。
だけど、剪定の仕方や挿し木のやり方は覚えている。
あなたが育てた沈丁花も木蓮もこんなにいい香りで立派に咲き誇っています。
春ですよ。
「なにか困った事はありますか?」先生が聞いた。
「困った事だらけです。」と父は答えた。
今日が何月何日かも、ここがどこの病院なのかも、自分の誕生日も
今の季節も・・・先生の質問になにひとつ、ちゃんと答えられなかった。
神経内科を訪れたのが2月のこと。
「アルツハイマーです。」先生が脳のフィルムを見ながら言った。
海馬という短期的記憶を司る部位が著しく大きな隙間が出来ている。
古い記憶を司る部位はまた別のところらしい。
「そのうち、食べ方も忘れます。」
先生は淡々と説明を続ける。
ショックだった。
それでも、今は進行を遅らせる薬が出ていて処方して頂いた。
「同じものばかり買ってきたりしませんでしたか?」と聞かれた。
父は母に代わってしょっちゅう買い物に行っている。
そんなの何年も前からだ。
母のケアマネージャーさんから、「病院に行くのを嫌がる人には
健康診断だと言って連れていく方もいますよ。」とアドバイスを受け
そう言ってみたら案外簡単に病院に連れて行くことができた。
父の変調には前から気づいていたのだ。
無理やりにでも連れて行けばよかった。
後悔しても始まらない。
薬を処方してもらってから父はぼんやりと澱んだ顔つきがシャッキリしたように
みえて、よかったなと安心した矢先、夜中に徘徊して警察に保護された。
それから、認知症の薬に加えて気持ちを穏やかにする漢方薬がが処方された。
これが効いたのかやっと父は穏やかになった。
今はデイサービスに週3回通うようになってずいぶん元気になった。
いろんな事は忘れているけれど会話はちゃんと出来るし、冗談も言う。
頭がスッキリしたような気がする・・・とも言っている。
私から見てももやが晴れたような顔に見える。
先日、病院に行った時「ずいぶん、シャッキリしてきました。」と言うと
「今処方している薬の量は身体にあうかどうか試すくらいの量で効果が出る量では
ありません。本来なら、徐々に増やしていくのですが様子をみましょう。」との事だった。
それならデイサービスで大勢の人と交流することが刺激になって、やる気が出たのだろう。
夜中に起きることも徘徊もなくなった。
ずっと実家からの帰り道、父と母の顔が浮かんで心配とこれから先の不安で涙がこぼれた。
ここまで徘徊だけでなく、いろいろトラブルが続き、電話が鳴るたびにドキドキした。
やっと、うまくいく・・・と思ったら何か問題が起こる。
やっと落ち着いた生活ができるのかな・・・と期待しているけれど。
昨日はずっと行ってなかった犬の散歩に行った。
迷子になるんじゃないか・・・あとで探しに行ってみようと思っていたら
ちゃんと帰ってきた。父より犬の方がちゃんと家を知っているものね。
母の方も腰が回復したら足の方が痛むようになった。
リハビリも嫌がっていたけど、こちらもリハビリ中心のデイケアに通うことになった。
老いること・・・まざまざと両親に現実を見せてもらった。
私もいつか辿るだろうその時の為に・・・
これからの生き方を考えるよい機会を与えてもらった。
庭に出て沈丁花を見た父は「これは、丸く剪定せんといけんのじゃ。
またしとくから」と言っていた。
園芸の話をすると元気になるみたいだ。
覚えている話はうれしくて、忘れている話をすると自信がなくなるのだろう。
明日になれば、そんな会話をしたことも忘れているんだろうけど・・・
庭には父がほったらかしにしている盆栽がたくさん並んでいる。
昔のように手入れしてくれたらいいけどな。
by suuko3077
| 2013-03-27 14:55
| 家族